甘酒祭18:埼玉県小鹿野町の八坂神社(天王社)の間庭の甘酒まつり

埼玉県小鹿野町の八坂神社(天王社)

甘酒との所縁

八坂神社(天王社)及び間庭集会所について

八坂神社(天王社)及び間庭集会所は県道37号線(皆野両神荒川線)と荒川水系の小森川が交差する地点にあります。道に面した所に八坂神社と他3社を祀る神殿、その裏に間庭集会所があります。
※以後、基本的には八坂神社(天王社)と記載せずに八坂神社とのみ記載し、必要に応じて天王社の名前を記載する。

埼玉県小鹿野町の八坂神社(天王社)と他2社

 

ここ間庭地区では代表的に八坂神社(天王社)が名を挙げられていますが、当社が鎮座する神殿には、十一面観音、鬼神神社、妙見社も併せて祀られています。

 

 

八坂神社と言えば御祭神は素盞嗚尊が祀られているはずですが、八坂神社は牛頭天皇を祀る天王社または天王様という名称が両立しており、矛盾を感じます。実は素戔嗚尊と牛頭天王を同一視する信仰もあり、そこが当社の八坂神社(天王社)という名称を紐解く鍵なのかもしれません。

ここで、神殿に掛けられていた看板の文面を記載しておこうと思います。

『当社は秩父巡礼三峰山参詣古道(さんけいこどう)に面し、小森川上の交通の難所であった。故に里人大いに難儀し、神仏のご加護により地域平穏、旅人安全を祈願してきた。古記録によれば江戸初期には十一面観音堂が当地にすでにあったと見える。後に里人、草葺き(くさぶき:昔の家の草の屋根のこと)の一字を建立し、牛頭天王社、鬼神社、妙見宮を合祭し、尊崇護持し現在にいたる』

当記事では、現段階では詳しく述べず、古老から牛頭天王を祀っているとの話も伺ったので、牛頭天王をお祀りしている天王社で後に八坂神社とも呼ばれるようになったという解釈が今の所しっくりと来るかもしれません。

この他、十一面観音堂は仏教、鬼神社は鬼を祀り、妙見宮は北極星信仰です。

当社の甘酒まつりの起源は、事項に詳しく述べますが、天王社での祭事を起源としており、天王社を中心に執り行われています。

 

間庭の甘酒まつりの起源

甘酒祭の起源は、三百数十年前に疫病が流行し、死者が相次いだ時に、甘酒を作り八坂神社で祈願したところ、厄が去り、疫病の流行が治まったことから始まった慣わしです。

現在、2019年から三百数十年前の疫病というと1642~1643年(寛永の大飢饉)もしくは1691~1695年(元禄の飢饉)に端を発したものである可能性がありそうです。

この祭りの役割分担は、江戸時代の名主である間庭家とゆかりのある家々が世襲的に継いでおり、麦集め役、麦ふかし役、麹ねかせ役、麹ねかせ宿役、粥たき役、かき込み役、宿番などが挙げられます。

現在は間庭家の都合が悪くなってから守屋家が祭りを取り仕切るようになり、また途絶えた家もあるので、うまく役割を変えながら継承しているそうです。

少し話が逸れますが、当社は東京都、埼玉県、山梨県、長野県にまたがる秩父多摩甲斐国立公園近隣にあります。この他に当公園域で行われる甘酒祭としては秩父市の猪鼻熊野神社の甘酒祭山梨市の大嶽山那賀都神社の甘酒祭が挙げられます。近い地域での同系統の祭り…非常に興味深いです。

 

甘酒祭の感想

2019年7月21日の間庭の甘酒まつりの感想

埼玉県小鹿野町の八坂神社(天王社)近くの風景

本日は2019年7月21日(日)、梅雨はまだ明けておらずどんよりとした空模様、気温は25℃と高くはないが湿度が高くやや蒸し暑い陽気。

西武秩父駅から車で移動し、直接、間庭の神殿及び集会場に向う。

会場のすぐ裏を荒川水系の小森川が流れており、水の流れる音が微かに聞こえる…

埼玉県小鹿野町の八坂神社(天王社)の間庭の甘酒まつりの甘酒神輿

当社の甘酒祭は10:00の甘酒樽神輿から始まり、神殿の十一面観音堂に奉納します。
甘酒神輿は中身の総重量は推測で36キロほど、大樽や担ぎ棒を合わせると50キロ近くありそうです。これを大幣を掲げた先導者に導かれ、『甘酒祭りだ、わっせい、わっせい、わっせい、わっせい!』の掛け声とともに、男性4人で担いで、神殿前を練り歩きます。

 

非常に重そう…時折、顔をしかめる様子や唸る声が漏れる…

 

樽神輿は十一面観音堂に納められる。
埼玉県小鹿野町の八坂神社(天王社)の間庭の甘酒まつりの甘酒神輿奉納 埼玉県小鹿野町の八坂神社(天王社)の間庭の甘酒まつりの酒樽

 

式典は、宮司さんが八坂神社前に座し、激しい太鼓の連打と修祓から始まり、祝詞を2回奏上し、玉串奉奠(ほうてん:謹んで供えること)をし、激しく太鼓を連打して締めくくります。最後に、村民の健康と繁栄を願い、甘酒の直会が執り行われます。

埼玉県小鹿野町の八坂神社(天王社)の間庭の甘酒まつりの直会 埼玉県小鹿野町の八坂神社(天王社)の間庭の甘酒まつりの直会の乾杯

この間、約30分ほどで終わりました。

この修祓と式典の終わりの太鼓の連打が今までに見たことがない激しいもので、寺で太鼓を叩きながらお経を読み上げている様相に近しいものを感じました…

 

埼玉県小鹿野町の八坂神社(天王社)の間庭の甘酒まつりのお椀の甘酒

 

直会の甘酒は流動性の高いシャバシャバの甘酒で、麦麹で麦を糖化したものでした。甘さはあまり強くなく、糖度12~14%ほどだろうか…香りは仄かにフルーティな香気があり、風味はややアルコール系の香りを帯び、味は仄かな苦みの中に甘味がある独特な味わい…

 

大きな樽に大量の黄土色の麦の甘酒がなみなみと存在している様は圧巻!!

埼玉県小鹿野町の八坂神社(天王社)の間庭の甘酒まつりの樽の甘酒

朝10:30の段階で、甘酒はふつふつと泡が湧き、発酵が進行しているのが良くわかる様…これを昼、そして夜となるにつれて、酸味とアルコールが増してきて、全く違う味わいに変化していくそうです。

僕がお土産で頂いた甘酒は、帰宅途中、どんどん発酵が進行し、21時頃には非常にブクブクと激しく泡立ち、密閉ができないほどです。しかし、香りが凄くいい!
※話によると、夜に余った甘酒を草叢にまくと、酸が強くて枯れてしまうのだとか!

昔は、発酵しすぎた甘酒を発酵種にし『すまんじゅう』という甘酒発酵饅頭を作っていたのだとか…

 

祭は、直会を終えた後は、村民が集会所に集まり、炊き出しの汁物(大根、ニンジン、ジャガイモ、肉と醤油で味付けしたもの)や酒と甘酒などで宴会が行われ、12:00頃にはある程度落ち着く…祭りもひと段落と言ったところです。

埼玉県小鹿野町の八坂神社(天王社)の間庭の甘酒まつりのイノシシ汁

 

この地では、狩猟も行われており、炊き出しの汁物にはイノシシ肉も入れられていました!これが非常に美味い…美味すぎる…

 

 

 

小鹿野町の旧両神村の小森地区で古くから脈々と受け継がれている間庭の甘酒まつり… 昼を告げる雷鳴花火の爆音を耳にし、この地を後にしました。

 

秩父地方の伝統的な甘酒で作る饅頭『すまんじゅう』

埼玉県小鹿野町の八坂神社(天王社)で聞いた酢饅頭の試作

祭の最中に聞いた秩父の伝統的な饅頭『すまんじゅう』
これは、甘酒が発酵しすぎた時に饅頭として食べる方法なのだとか…

 埼玉県小鹿野町の八坂神社(天王社)のお土産の麦甘酒

お土産に頂いた麦甘酒は前項に書いた通り、激しく元気に発酵しており、なめてみると、非常に香りが良いものの、ほぼ甘酒ではないものに…

 

 

埼玉県小鹿野町の八坂神社(天王社)のお土産の麦甘酒で作る饅頭生地そこで、一般的な酵母を用いた饅頭のレシピを参考に、この甘酒を発酵種として生地に練り込み発酵させて、餡を包み、蒸し上げました!!
※酵母が元気で一時間後には溢れんばかりに膨れた生地が…

非常に美味しいふわふわ柔らか生地の饅頭に仕上がりました!詳しいレシピは『酢饅頭~甘酒を発酵種にする秩父の郷土料理~』にてご紹介しております。また、今回頂いた甘酒を用いて『焼き饅頭~甘酒を発酵種にする群馬県の郷土料理~』もご紹介しておりますので合せてご覧ください✨

甘酒を発酵種として饅頭を作る文化の歴史は古く、また日本各地にみられるものですが、この様な機会に、秩父の伝統的な甘酒饅頭に出会えたのは非常に嬉しい限りです。

 

間庭の甘酒まつりの情報

開催日:7月第3日曜日頃(昔は戦前に旧暦7月20日、戦後に7月最初の土用の日に開催)
※現在は7月第3日曜日頃となっており前後する可能性があります。
※小鹿野町役場両神庁舎が旧両神村役場なのでこちらに問い合わせた方がわかりやすいかもしれません。(両神庁舎・おもてなし課:0494-79-1100)

最寄り駅(アクセス):西武秩父線西武秩父駅で小鹿野町営バス乗車、道の駅両神温泉薬師の湯で下車、徒歩20分(1.6キロ)で八坂神社(天王社)及び間庭集会場 http://www.knet.ne.jp/~ats/c/a/oga/se.htm

住所(八坂神社(天王社)及び間庭集会所): 埼玉県秩父郡小鹿野町両神小森

小鹿野町役場:https://www.town.ogano.lg.jp/photo/%e9%96%93%e5%ba%ad%e3%81%ae%e7%94%98%e9%85%92%e3%81%be%e3%81%a4%e3%82%8a-3/