前回の『呼吸と発酵の役割は?!~第1回:エネルギーを得て使う話』では、すべての生物に共通するエネルギーを保存する為のアイテム『エネルギー通貨(ATP)』と、その使い道についての説明をしました。今回は、エネルギーの獲得方法である『呼吸』と『発酵』の違いに着目し、食品分野における『発酵』の話をして締めくくろうと思います。
『呼吸』と『発酵』とは~生理現象からの区分け~
この『呼吸』と『発酵』は、生化学(生物における化学反応の学問)の世界で話をするなら、
・『呼吸』が酸素を用いて有機物からATP(エネルギーを保存するアイテム)を合成する手段
・『発酵』が酸素がない環境下で有機物からATPを合成する手段
です。
呼吸、発酵共に生物が生きていく為のエネルギーを獲得する手段です。
しかし、このエネルギーの獲得経路におけるエネルギーの獲得量は、酸素を用いた時には多量に、用いない時には少量と、その差は『15倍以上』もあります。
そして『呼吸』はエネルギー源(栄養素)を完全に燃焼させて水と二酸化炭素にまで分解・排出するのに対し、『発酵』は完全燃焼されない為にまだエネルギーを取り出せる状態の有機物が排出されることになります。この有機物とはアルコール(エタノール)や乳酸などで、エタノールに7kcal/g、有機酸(酢酸や乳酸)に3kcal/gのエネルギーがそれぞれ残っています。
微生物も体に酸素を用いたエネルギー獲得の器官をもっている真核細胞生物の場合と、原核細胞生物だけど酸素を使ってエネルギーを獲得できる微生物、酸素が使えない微生物などが存在し、その時の経路は大方、上の図『発酵と呼吸のコースの違い』であると覚えてもらえれば十分です。そして、真核細胞生物が持っているミトコンドリアとは元は酸素を使ってエネルギーを得る微生物が、細胞内に住み着いたからだという事を伝えておきます。ミトコンドリアがあるからこそ、真核生物は酸素を使ってエネルギーを生み出すことが出来るのです。
そして、人間の体も激しい運動を行うと細胞内の酸素が欠乏し、発酵によるエネルギー獲得を行うのは皆さんご存知でしょうか?
その時に作られるのが、筋肉疲労の時にやり玉にあがる『乳酸』です。
そしてここまでの話で、私達がダイエットをしたときに燃やした脂肪や糖質がどうなっているのかは、予想が付くと思います(笑)
答えは、『呼吸』で完全燃焼させると『水』と『二酸化炭素』になってしまうのです。
この項では、生化学の分野における生理現象に着目した『呼吸』と『発酵』の違いは、酸素の有無におけるエネルギーの獲得方法の違いという話をしました。
しかし、食品の分野では『発酵』という現象が、違った解釈がなされている現状があります。
食品における『発酵』とは~得られる物質からの区分け~
食品における発酵とは、エネルギーの獲得に基づいた話ではなく、食品を発酵させることで何が得られるのか、どういう状態になるのかという食品自体の変化を指した話が基本です。
食品の中で活発な生命現象が営まれている場合もそうでない場合も、食品が、人間にとって好都合の状態に変化すれば発酵なのです。
実は、米麹甘酒は麹カビがエネルギーを得るために発酵を行っているのではないことをご存知でしょうか?
米麹甘酒を造る時、60℃に保温しながら、皆さん造られるかと思います。ここで自分が60℃の風呂に浸かったことを想像してみてください…どうでしょうか?
とてもじゃないけど、入ることは困難を通り越して不可能、もし入りでもしたら火傷をおうことでしょう。
つまり、60℃の環境に放り込んだ段階で、基本的にカビさんはみんなご臨終です。
麹カビも熱湯風呂の中では生きられないのです。
では?なんで甘酒は甘くなるのかというと、麹カビが外から栄養素を得るために分泌した消化酵素を利用して発酵させているからなのです。これは生物がエネルギーを得る手段の発酵とは全く違うという事を覚えておいてください。
発酵食品及び醸造の分野では、生命活動が伴う場合もあれば、そうでない場合もあり、食品が人間にとって都合の良い状態に変化した結果を指して、『発酵』という言い方をしています。
まとめ
『呼吸』や『発酵』は、生命現象におけるエネルギー獲得系の視点でみる場合と、特に食品分野における『発酵』の最終的な食品の変化に着目した視点で見る場合の2通りあります。そして、特に発酵という言葉は、生化学と醸造学や発酵食品学という学問間で同じものが用いられている為に、初学者や一般人ともに混同されているのが現状です。
今回の記事でこの疑問を解消することができ、甘酒を始め、発酵食品に対する理解が深まれば幸いです。
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